小規模事業者のための本気のクラウド会計比較

3大クラウド会計(と、弊社で勝手に位置づけています)の「freee」「MFクラウド」「弥生会計オンライン」を、小規模事業者が本気で導入する視点から比較してみました。

3大クラウド会計?

弊社で独自にそう位置づけているだけですが、多分執筆時点で利用シェアの高いクラウド会計サービス3つです。

本気で導入する視点?

クラウド会計、どのサービスも有料です。どれが安い・どれがお得、という料金の比較はこのページではいたしません。小規模事業者様それぞれに「出せる金額」「高いと思う・安いと思う金額」が異なるでしょうし、本気で導入を考えているのならそこはご自身できちんと調べて比較して下さい。

このページでは「本当に実際に利用してみてからでないとなかなか分からない、気が付かない運用でのこんなポイント」という部分に焦点を充て、いくつかのポイントで比較します。今回このページで比較しているポイントは以下の点です。

  • 会計ソフトとして使いやすいか?
  • 複数ユーザーでの運用に適しているか?
  • 証憑データ(レシートデータなど)の添付・紐付けが出来るか?
  • バックオフィスの効率化・最適化に適しているか?

比較にあたっては実際の運用・検証をしておりますが、評価・コメントについては筆者独自の感想・意見であることをご了承下さい。

会計ソフトとして使いやすいか?

freee MFクラウド 弥生

freee

印象として、元々「会計業務に精通している人が使いやすいように」というよりも「バックオフィス作業を効率化するために」という目的に重きが置かれていた感じなので、会計ソフトを使い慣れている方には、スタート時点で入り口のハードルが高いです。具体的には例えば

  • 勘定科目設定に「補助科目」という概念が存在しない
  • 会計ソフトとして使うにはわかりにくい「口座」という概念を会計処理に持ち込んでいる
  • 一般的な会計ソフトで使われている「仕訳登録」という言葉が使われていなくて「取引登録」「自動で経理」というような表現をしている(いわゆる複式簿記の仕訳という印象とは異なる登録方法)

という点。これまで「売掛金」の補助科目に「取引先別の名称」を設定して、取引先別の売掛残高を確認していた、というような運用をしていた方にとっては「補助科目がなかったらどうやって取引先別売掛残高を確認するの?」という感じのいきなりの「?」マークがついてしまいます。
運用に慣れれば決してそんな事はありませんが、「会計ソフトとして使いやすいか?」と言われたら疑問符が付きます。

MFクラウド

freeeとは異なり最初から「会計ソフト」として作られているという印象です。勘定科目の設定や仕訳登録などの方法も一般的な会計ソフトの操作や登録によく似た登録方法です。

その意味で元々複式簿記に慣れていて他の会計ソフトを使った経験のある方にとっては使いやすい印象です。ただ、じゃあ弥生会計オンラインが「◎」なのに対してどうしてMFクラウドが「◯」なのかというと、以下の1点。

  • 預金出納帳・売掛帳というような会計ソフトによくある帳簿をドンピシャそのものズバリ!で呼び出せない

現金出納帳というメニューはあります。ただ、「預金出納帳」「売掛帳」については「仕訳帳」を出して、「預金出納帳」「売掛帳」に当たる条件抽出をする必要がある、という点がちょっとだけ面倒くさい。

預金出納帳の入力・確認に慣れていて作業頻度の高い方にとっては、この部分がほんの少しだけ「残念」なところです。(よく理解してみれば、クラウド会計・自動仕訳取込というシステムの設計上、これは仕方が無いと言えば仕方がないことなのですが)

弥生

元々「パッケージソフト」の時代に培ったノウハウが凝縮されているので、会計ソフトとして使うのには非常に使いやすい印象です。(MFクラウドの項で書いた「現金出納帳」「預金出納帳」「売掛帳」のようなよく使う帳簿も一発で呼び出せる)

パッケージソフト(それが弥生会計でなくても)を元々使っていて、それに近い操作感でクラウド会計を使いたい、という方には非常に使い勝手の良いクラウド会計だと思います。(ただ、以下の別の観点での比較で難点があります)

複数ユーザーで運用できるか?

freee MFクラウド 弥生
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freee

経営者・会計事務所担当者・経理担当者・一般社員というような感じで、「使い方・運用条件の異なるユーザーで運用できるか?」という点では、freeeはこの3大クラウドの中ではダントツです。例えば、以下のようなちょっと込み入った運用方法にも非常に柔軟に対応できます。

「◯◯銀行の口座情報だけは、経営者と会計事務所担当者だけしか見られないようになっていて、経理・一般社員はそれ以外の部分しか入力・閲覧が出来ないようにしたい」

こういった「権限設定」などの細かさ・柔軟さは非常に優れています。経理担当が経営者家族ではない場合などに、「特定の部門や特定の銀行口座については見せたくないけれど、それ以外の経理作業だけは任せたい」というような「事務所での運用に合わせたクラウド会計の設定」という点では圧倒的です。

MFクラウド

freeeと同様に「ユーザー別に出来ること」(つまり権限)が区別はされています。けれどもこの「権限」は予め「オーナー・管理者・一般」という感じで決められたものしか適用出来ません。

このため「閲覧出来るだけ」「編集もできる」「設定まで出来る」という区別をユーザー別に割り当てることは出来るのですが「特定の口座だけあるユーザーには見せたくない」というような設定が出来ません。この部分がfreeeに大きく水を開けられている点です。

弥生

複数ユーザーでの運用という概念がそもそもないようです。このため、複数のユーザーで使うのであれば「同じID・パスワードを使い回す」しか無い状態のため、複数ユーザーでの会計システム運用・管理には全く適用できません。

仕訳に証憑データを添付できるか?

freee MFクラウド 弥生

freee

全ての仕訳データに、自由に証憑データを添付できます。レシートを撮影した画像ファイルでも、PDFファイルでもOKです。また、一つの仕訳データに複数の証憑データを添付することも可能ですし、一つの証憑データを異なる複数の仕訳データに紐付ける事も出来ます。

この自由度も3大クラウドの中で群を抜いています。

MFクラウド

証憑データの添付(紐付け)は、「手動で仕訳たデータ」に対してのみ登録することが出来ます。自動仕訳で取り込んだカード利用明細やインターネットバンキングの口座明細には、データをアップロードして添付・紐付けすることが出来ません。

このため、「クレジットカード利用」(=未払の経費)については、「金額・日付・摘要」は正確に記録することが出来ても「ソレが本当に経費として認められるか?」を確認するための領収書やレシートデータをクラウド上で確認することが出来ません。この点が、執筆時点では筆者にとって決定的に残念な点です。

弥生

証憑データ(PDF・画像データ)をスキャンして仕訳登録することは「出来ないことはありません」(実際に試してみましたがfreee・MFクラウドに比べてエラーや処理の遅延が著しく、筆者の印象としては実用に耐えませんでした)。

また、MFクラウドの逆で「スキャンデータを自動仕訳で取り込んだ場合」にしかデータ添付出来ず、手動で登録した仕訳データには添付できないようです。

バックオフィス業務の効率化・最適化に適しているか?

freee MFクラウド 弥生

freee

クラウド会計システム内で「見積・納品・請求」などの書類とデータが作成できるため、いわゆるバックオフィスと言われる事務作業・管理作業を効率化・最適化するのにはかなり適していると筆者は評価しています。

また、外部アプリとの連携もかなり多様な選択肢があり、レジ・在庫管理・勤怠管理などとの連携もかなり踏み込んで使えそうです。

ただ、給与計算システム(労務管理)が別システムになっていて、そこそこに料金が高い点が気になります。

MFクラウド

freeeと少し考え方・システムの作り方が違うようですが、同じ「MFシリーズ」内で請求・給与・経費などの処理が連動押して出来るようになっている点、外部サービスとの連携も充実している点から、最適化・効率化は高く評価できます。

弥生

出来ないことはない、という印象です。クラウドレジなどのサービスと連携出来るようになってはいますが、freee・MFクラウドに比べて圧倒的に連携できるサービスが少ないのが致命的です。(執筆2020年4月18日時点)

全体的な印象と評価

筆者(弊社)では、2016年にfreeeを導入、その後2018年にMFクラウドを、2020年初頭に弥生会計オンラインをそれぞれ利用開始し、全く同じ会計処理を3つの異なるクラウド会計サービスで併用して検証してみています。

実際に使ってみた印象としては

  • freee・・・自由度が非常に高いが、考え方や運用方法がちょっと独特な感じがする
  • MFクラウド・・・良くも悪くも「オーソドックス」な感じ。バランスの良さでは一番かも?
  • 弥生・・・旧態然とした経理事務をIT化するのならアリだが「クラウド活用」という観点からはメリットを感じない

という印象です。なお、この印象・評価はあくまで弊社・筆者の独自の感想です。何らか客観的なベンチマークなどを行ったものではありません。ただ、「実際の小規模企業での実運用を通じて使ってみた上での感想」として、皆様のご参考にしていただければと思います。