ITコーディネータ独立開業録~14~

筆者(岸本)が独立開業・ITC資格を取得して「何とか食えるようになった」体験記その14

経験値・実績がない状況でどうしたか?

このコーナーで連載しているITCとしての独立開業録のうちのいくつかのテーマは、ITCフォローアップ研修などの場でお話させていただいています。そういった研修の場で必ずと言ってよいほど頂くご質問があります。それが

これから独立してやっていこうという場合には、まだ経験値も実績も十分積んでいないという状況だと思います。そういう状況で相談者(事業主)さまと対面してお話をしなければならない場合、どうやって相手の信頼を獲得して支援案件の獲得に結びつけたのでしょうか?

(注)想定しているのは「これから営業をしてゼロから案件を獲得する」という状況ではなく「何らかのツテや紹介で相談を受けた・支援を要請された」という状況でのお話。

これは確かにごもっとも、その通りなご質問だと思います。で、このご質問には私はかならずこう答えています(これが正解・正しい、と言いたいわけではありません。私の場合はこうしている、という回答です)

業界・業務に精通している事を求められているわけではない

初めて携わる業界、初めて承る相談テーマの場合、当然「その業界・そのテーマ」については詳しいわけがありません。私の場合、こういう状況ではまず一番最初に「御社の業界について私は初めて携わることになるため、業界の動向や慣習などについて精通しているわけではありません」あるいは「ご相談いただいているテーマについての支援は初めてのケースなので、過去の事例や実績をご紹介して提案する事ができません」ということを、明確にお伝えします。

もちろん、「突っぱねる」ような言い方でお話するわけではありません。真摯に、自分の未熟さ経験値の低さを認めて、丁寧にお伝えするようにしています。

この時点で「なんだ業界に精通してるんじゃないのか」「この相談に詳しいその道の専門家じゃないのか」と相手から言われてしまった場合には、私の場合はすっぱりと諦めて引き下がるようにしています。業界・業務に精通していることを求められているのであれば、この時点で事業主さま(=私にとってはお客様)の要望に答えられる見込みがないのですから、無理やり食いついたとしても、私にとっても事業主様にとっても良い結果は望めません。

ただ、上記のような「けんもほろろ」な反応になることはあまり多くありません。多くの場合「あ?そうなの?・・・」と一瞬戸惑われるということはありますが。

相談相手(=事業主さま)が本当に求めているのは「自分の業界に詳しい」「自分の会社の社内業務や社内の事情に詳しい」ことではありません

求められているのは「今目の前にある課題・問題について、どのように解決・克服すればよいかを支援してくれる専門家の知見」です。

求められている知見・能力に答えられる事を伝える

上記の「業界・業務に精通しているわけではない」ことを真摯に伝えたら、私の場合その場で間髪入れずに「その次」もお伝えします。

けれども、社長(事業主さま)が取り組まれようとしているテーマ・課題をどうクリアすればよいか?について、考え・検討し・御社にとって一番良い方法を策定するための知識や経験はご提供できます。社長と一緒に取り組ませていただければ、社長ご自身で調べたり検討するよりも的確に成果を出すお手伝いが出来ると思います。

その時々のテーマや、対峙している相談相手の様子などによって言い方や言葉選びは変わりますが、概ねこんなことを伝えています。ポイントは

  • こういう課題やテーマに決まった答えがあるわけではなく、丁寧に考え、検討する必要があること
  • 検討にあたっては、私が一方的に助言・支援するのではなく事業主様と一緒に考える・検討するものであること
  • これらの支援や検討の際の知識については、事業主様が独力で取り組まれるよりは早く・的確に成果を出す支援が出来ること

この3点をお伝えするようにしています。

支援に臨むのに当たっての「線引き」をする

  • 業界・社内の業務や事情については、私(専門家)よりも当事者の事業主様のほうが遥かに詳しく経験値も高いこと(=支援の過程でむしろ専門家である私のほうが教えて頂く場合もあること)
  • 取り組むべき課題とその克服方法について検討・選択するための知見や方法論は、私が提供できること
  • 私(専門家)が全部引き受ける(=事業主様から丸投げされる)ものではなく、「一緒に考え、取り組む」べきものであること

この3点を、支援に臨む早い段階できちんと伝えておくことで、良い意味での「支援内容についての線引き」が出来ます。(明確に線を引くわけではありませんが、事業主様と自分との間で概ね合意形成が出来るようになる)

「支援」というのを「こちらが技術・知識・ノウハウを提供して、事業主さまがそれを享受する」というものではなく「専門家が伴走しながらその都度必要な技術・知識・ノウハウを提示し、事業主様に主体的にそれらを活用して頂く」というものだと、そういうスタンスに立てると、私の場合たいていその支援がうまくいきます(うまくいく=事業主様に概ね満足していただける結果・成果につながる)

 

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