
「私はパソコンが苦手だから」
「ITのことはよく分からないから」
「もう歳だから、今さら覚えられないよ」
小さな会社やお店の経営者様と、IT活用やデジタル化についてお話ししていると、こうした言葉をよく耳にします。
特に、パソコンを使う仕事にあまり関わってこなかった方や、年齢の高い方の中には、
「自分には難しそうだから、やめておこう」
と、話を聞く前から及び腰になってしまう方も少なくありません。
けれども、2026年の現在、本当に「ITが苦手だから」という理由だけで、デジタル活用を遠ざけてしまってよいのでしょうか?
ITに詳しくなる必要はありません
弊社・岸本ビジネスサポートは、2002年の創業以来、小規模事業者の経営支援、特にIT・デジタルの利活用支援に取り組んできました。
その中で、創業当時から一貫してお伝えしてきたことがあります。
それは、
パソコンやITに詳しくなる必要も、得意になる必要もない。けれども、自分の事業に合った形で、上手に使いこなすことは必要です。
ということです。
経営者が、パソコンの仕組みを隅々まで理解する必要はありません。
プログラムを書けるようになる必要もありませんし、IT機器の細かな設定を全部自分でできるようになる必要もありません。
自動車を運転する人が、エンジンの構造や電子制御の仕組みをすべて理解しているわけではないでしょう。
けれども、行きたい場所へ安全に移動するために、自動車を運転することはできます。
ITやデジタルも、基本的には同じです。
仕組みを詳しく説明できることと、自分の仕事のために使えることは、まったく別の話なのです。
以前は「パソコン操作を覚えること」が出発点だった
とはいえ、「ITが苦手だから避けたい」という気持ちが生まれたのには、理由があります。
特に2010年頃まで、事業者向けのIT活用支援というと、
- パソコンの基本操作を覚える
- Wordで文書を作れるようになる
- Excelで表や計算式を作れるようになる
- ファイルやフォルダーの管理方法を覚える
といった、「まず操作技術を身につけましょう」という話が中心でした。
国や行政の支援制度でも、パソコン操作やWord・Excelの習得を目的とした職業訓練、研修、能力開発などが盛んに行われていました。
もちろん、これらの技能が不要だったわけではありません。
ただ、当時のIT活用には、
便利に使えるようになる前に、いろいろな操作を覚えなければならない
という高い壁がありました。
何かをやりたいと思っても、最初にソフトの操作方法を覚え、設定を行い、マニュアルを読み、失敗を繰り返さなければならない。
そのため、成果が見える前に疲れてしまい、
「やっぱり私には無理だった」
と、途中でやめてしまう方が多かったのです。
本当にITが苦手なのでしょうか?
では、2026年の今はどうでしょうか?
「私はITが苦手だから」と話す方でも、スマートフォンを持っていることが多いでしょう。
LINEで家族や知人とメッセージをやり取りしていませんか?
送られてきた写真を見たり、自分で写真を撮って送ったりしていませんか?
InstagramやFacebook、YouTubeなどを見ていませんか?
地図アプリで目的地を探したり、インターネットでお店を検索したりしていませんか?
これらは、すべて立派なIT活用です。
スマートフォンの文字入力、画面のスクロール、タップやスワイプといった操作は、昔の携帯電話、いわゆるガラケーの時代には一般的ではありませんでした。
スマートフォンを初めて手にしたときには、
「どこを押せばいいのか分からない」
「文字がうまく入力できない」
「画面が勝手に動いてしまう」
と、かなり苦労した方も多かったはずです。
それでも、家族や友人と連絡を取りたい、写真を見たい、動画を楽しみたいという目的があったから、少しずつ使うようになった。
周りの人も使っていて、使えば楽しいこと、便利なことが分かったから、いつの間にか覚えていた。
つまり、多くの方は「ITが苦手で、まったく使えない」のではありません。
自分にとって意味があり、便利さや楽しさを実感できるものなら、すでにITを使いこなしているのです。
使えないのではなく、「使う理由」が見えていない
事業でのIT活用やデジタル活用も、本来は同じです。
ところが、仕事の話になると急に、
「難しそう」
「面倒そう」
「覚えることが多そう」
「やったところで、本当に効果があるの?」
という気持ちが先に立ってしまいます。
これは、能力の問題ではないと私は考えています。
ITを使うことで、何がどう楽になるのか。
仕事がどれだけ早く終わるのか。
売上や利益にどうつながるのか。
お客様にどんな良い変化が起きるのか。
そうした「使った先の姿」が見えていないのです。
やっても効果が分からない。
難しい割には成果が見えない。
だから楽しくないし、ワクワクもしない。
当然、夢中になって覚えようとも思えません。
これは、ある意味では当然のことです。
私たちは、ITを使うことそのものを仕事にしているわけではありません。
小売店なら商品を売ること、飲食店なら料理やサービスを提供すること、建設業なら良い建物を造ることが本来の仕事です。
ITは、その仕事を少しでも良くするための道具にすぎません。
道具を使う目的や効果が見えないまま、「とにかくデジタル化しましょう」と言われても、やる気にならないのは当然なのです。
10年ほど前までは、本当に大変でした
正直に言えば、10年ほど前までのIT活用やデジタルマーケティングには、実際に面倒なことがたくさんありました。
ホームページを更新するにも専門的な操作が必要でした。
チラシや案内文を作るにも、自分で文章を考え、レイアウトを調整しなければなりませんでした。
売上データを集計するにも、Excelの関数や表の作り方を覚える必要がありました。
SNSで情報発信しようとしても、
「何を書けばいいのか分からない」
「文章がまとまらない」
「毎回考えるのが大変」
となり、数回投稿しただけで止まってしまうことも珍しくありませんでした。
「簡単にできる」「すぐに効果が出る」という期待とは裏腹に、地道な努力と面倒な操作が必要だったのです。
その結果、成果が出る前に疲れてしまい、
「やっぱりITは難しい」
「うちのような小さな会社には向いていない」
という印象だけが残ってしまいました。
生成AIによって、入口が大きく変わった

ところが、ここ数年で状況が大きく変わりました。
その大きなきっかけが、生成AIです。
生成AIは、以前のパソコンソフトのように、たくさんのボタンや複雑なメニューの使い方を覚えなければ何もできない、というものではありません。
基本的には、自分がやりたいことを、普段使っている言葉で伝えます。
「お客様への案内文を考えて」
「この文章を、もう少し分かりやすくして」
「今月の売上データを整理して」
「この商品の紹介文を考えて」
「会議の内容を要約して」
このように、誰かに相談したり、仕事を頼んだりするのと近い感覚で使えます。
しかも、生成AIはパソコンだけのものではありません。
スマートフォンでも利用できます。
つまり、LINEでメッセージを送ることができる方なら、生成AIを使い始めるための基本的な操作能力は、すでに持っているのです。
もちろん、最初から思いどおりの答えが返ってくるとは限りません。
頼み方を少し工夫したり、返ってきた答えを確認したりする必要はあります。
それでも、従来のIT活用と比べれば、入口は大きく下がりました。
「操作方法を何時間も勉強してから使う」のではなく、
とりあえず話しかけてみて、使いながら覚える
ということができるようになったのです。
「ITが苦手」という先入観のほうが、大きな壁になる
ここまで来ると、IT活用を妨げる最大の壁は、操作技術ではないのかもしれません。
「私はITが苦手だから」
「自分には難しいから」
「若い人にしかできないから」
という、本人の中にある先入観です。
まだ使ってもいないうちから、自分にはできないと決めてしまう。
少し分からないことがあると、「やっぱり無理だった」と結論を出してしまう。
これは非常にもったいないことです。
生成AIを使うために、ITの専門家になる必要はありません。
難しい用語を覚える必要もありません。
必要なのは、
「この仕事を、もう少し楽にできないだろうか」
「この文章を、もっと分かりやすくできないだろうか」
「お客様に喜んでもらうために、何か良い方法はないだろうか」
と、考えてみることです。
そして、その答えを生成AIに一度相談してみることです。
苦手でも構いません。ただし、避け続けることはできません
私は、「ITが苦手であってはいけない」と言っているわけではありません。
誰にでも得意不得意はあります。
パソコン操作が好きでない方もいれば、新しい機械を触ることに不安を感じる方もいるでしょう。
それ自体は何も悪いことではありません。
けれども、事業を続けていく経営者として、
苦手だから、知ろうともしない。
苦手だから、使える可能性まで最初から捨ててしまう。
という姿勢は、これからますます通用しにくくなります。
会計、予約、受発注、顧客管理、情報発信、採用、問い合わせ対応など、事業を取り巻くさまざまな仕組みがデジタルを前提として動くようになっています。
取引先やお客様も、少しずつデジタルを使うことを前提に行動するようになっています。
そのような中で、経営者自身が「私は苦手だから」とすべてを遠ざけてしまえば、知らないうちに仕事の選択肢を狭めてしまいます。
大切なのは、何でも自分でできるようになることではありません。
何ができるのかを知り、自分の事業に必要なものを判断し、必要であれば詳しい人の力も借りながら使うことです。
これはITの技能というより、経営者としての判断の問題です。
まずは、「困っていること」を一つ相談してみる
では、何から始めればよいのでしょうか?
生成AIの難しい機能を勉強するところから始める必要はありません。
まずは、日頃の仕事の中で、
「面倒だな」
「時間がかかるな」
「何度も同じことをしているな」
「誰かに相談したいな」
と感じていることを、一つ挙げてみてください。
例えば、
- お客様へのメールを考えるのに時間がかかる
- SNSに何を書けばよいのか分からない
- 商品やサービスの説明がうまくまとまらない
- 会議や打ち合わせの内容を整理するのが大変
- 新しい企画のアイデアが思い浮かばない
といったことです。
そして、それをそのまま生成AIに伝えてみてください。
立派な指示文を書く必要はありません。
「こんなことで困っているけれど、どうしたらいい?」
と尋ねるところからで構いません。
使ってみて役に立たなければ、やめてもよいのです。
けれども、使う前から「私には無理」と決めてしまえば、役に立つかどうかさえ分かりません。
ITは、得意な人だけのものではありません
ITや生成AIは、パソコンに詳しい人だけが使う特別な道具ではありません。
文章を書くのが苦手な人。
考えを整理するのが苦手な人。
忙しくて時間が足りない人。
相談できる従業員や専門部署がいない、小さな会社やお店の経営者。
むしろ、そのような方にこそ役立つ可能性があります。
小規模事業者は、人も時間も資金も限られています。
経営者が営業も、経理も、企画も、採用も、お客様対応も行っていることは珍しくありません。
だからこそ、ITや生成AIを「難しいもの」として遠ざけるのではなく、自分の不足している部分を補ってくれる道具として考えてみていただきたいのです。
詳しくなる必要はありません。
得意になる必要もありません。
ただし、自分の事業を少しでも良くするために、使えるものを上手に使う。
それは、これからの小さな会社やお店にとって、特別な取り組みではなく、経営の基本の一つになっていくはずです。
「私はITが苦手だから」で話を終わらせるのではなく、
「苦手な私でも、どこなら使えるだろう?」
と問い直してみてください。
その小さな問いかけが、仕事を楽にし、お客様へのサービスを良くし、これからの事業を少し強くする第一歩になるのではないでしょうか。
岸本ビジネスサポートでは、単にITツールや生成AIの操作方法を教えるのではなく、皆さまの仕事や経営の状況をお聞きしながら、
「何に使えば、本当に役に立つのか」
「どこから始めれば、無理なく続けられるのか」
を一緒に考えています。
ITに詳しくないからこそ、相談していただいて構いません。
大切なのは、ITを覚えることではなく、ITを使って皆さまの商売や仕事を、今より少し良くすることなのです。

コメントを投稿するにはログインしてください。