小規模事業者のためのインボイス制度解説記事です。前回の解説で小規模事業者にとっての「インボイス制度」の基本を解説しましたが、色々難しい説明を聞いても「ソレってウチに関係あるの?」となんとなく遠ざけたくなる気持ちになるんじゃないかと思います。
そこで、今回の解説記事では、超具体的な事例を元に、どんな業種・どんな規模でも関係ないと言っていられない、ということを改めて認識を深めていただければと思います。
「支払う側」になった場合
インボイス制度に対応していない免税業者さんから仕入をしていて、その業者に対して「仕入経費を支払う」という場合のケース。
自分のお店が1100万円の年商があったとします。仮に、そのうち660万円を仕入れのために業者へ支払った場合、仕入支払の消費税60万円分は、預かり消費税から控除されますから、本来なら100万円‐60万円=40万円を消費税として納付すれば良いことになります。
ところが・・・図のように支払う相手が年商800万円の免税業者だった場合、消費税の60万円分は納付されないままになってしまいます。
インボイス制度では、こういう場合あなたのお店が業者に支払った60万円分は消費税の納付から控除されず、あなたのお店が100万円分の預かり消費税を納付する義務を負うことになります。
具体例:食品加工会社A社の場合
地元の農家さんから作物(野菜)を仕入れて加工し、加工食品として販売している食品加工会社A社さんの実例です。従来は、地元の農家さんから個別に作物を仕入(買付)していました。当然買付のときには消費税をあわせて支払っていました。ところが・・・
インボイス制度対応に伴い、各農家さんへ確認したところ、26軒の農家さんのうち24軒が「ウチはもう年齢も年齢だし、インボイス制度対応もかったるいので、免税業者のままでいくよ」という回答。
・・・ということは・・・?
- これまでと同様に買付(仕入)の際に消費税を合わせて支払ってしまうと、A社としては仕入控除が認められず、預かり消費税分を二重に負担しなければならなくなります。
- そこで免税業者のままでイイと回答した24農家さんへの支払は今後消費税を含めずに支払うことになりました。
- こうなると今度は、A社の方の会計・経理処理が非常に複雑になります。だって、「仕入れる相手によって、消費税込みでの仕訳をする場合と、消費税なしでの仕訳をする場合が出てくる」というわけですから・・・いちいち「これは税込み?消費税なし?」と確認しなければなりません。
- 結果的に、せめて相手の農家さんから本体価格・消費税の区別が明記された請求書を発行してもらおうと掛け合ったところ、18の農家さんからは対応してもらえるということになったので、なんとか買付の継続を取り付けましたが、対応してもらえない残りの6件の農家さんとは、今年(2022年)いっぱいで取引を辞めることになりました。
「請求する側」になった場合
こちらは逆に「自分のお店・会社が免税業者のままで、適格請求書発行事業者番号は申請しない」ということになった場合の想定・・・こちらはまだ「想定」ですので現実にこうなっている訳ではありませんが・・・
具体例:日用雑貨品の販売をしている雑貨店の場合
個人事業主でこぢんまりと経営しているお店のため、年商は900万円くらい。これまでは免税業者でしたから、預かり消費税は納付せずにいました(=その分が実質的にお店の収益の一部になっていた)。
1年に数回、近隣の大きな会社から、社内で使う日用品の注文を頂いていました。これがお店の売上の1割~2割くらいを占めていて、この取引があることで、その会社の関連のお客様からもご愛顧いただいていたのですが・・・この会社から「インボイス制度に対応しなければならないので、課税業者となって適格請求書発行事業者番号を取って下さい」と言われましたが、課税業者になれば、それまで実質的に収益になっていた預かり消費税分(年間80万円近く)を納付しなければなりません。大打撃です。
かといって、課税業者にならずに「消費税分は結構です」という対応をしようとしたところ、相手の会社からは「それなら、今後は別のお店から購入するので取引は見合わせる」と・・・
大口の取引を失って、年商の1~2割近くを売上減になってしまうのをとるか、それとも課税業者になってこれまで納付せずに済んでいた消費税を納付するのを取るか・・・悩ましいところ
どんな商売・どんな規模でも影響は免れない
このように、インボイス制度がスタートすると、どんなご商売でも、どんな規模でも、必ず何らかの影響が出てきます。「ウチは関係ないよ」というわけには行かなくなりますから、ぜひとも早めに「どういう対応をすればよいか」を検討するようにしましょう。
2023年10月に間に合えば・・・では遅い
対応しなきゃいけない、といっても、インボイス制度のスタートは2023年10月からでしょ?まだ1年半ちかくあるから、それまでの間にじっくり腰を据えて対応して、来年の7月か8月頃までになんとかなれば・・・と考える方も多いかも知れません。けれども・・・それでは間に合わないのです。
個人事業主の方は、今年(2022年)中に対応の決定を
免税業者から課税業者に変更するというのは、会計年度の途中ではできません。つまり、来年7月とか8月ギリギリになって「やっぱり課税業者になっておこうか?」と決めたとしても、もう間に合わないのです。←経過措置として2023年中の課税業者への変更は認められていますが・・・手続きが非常に面倒なことには変わりがありません。
また、仮にリスクを負ってでも免税業者のままでいく、と決めたとしても、そうなったらそうなったで2023年10月1日からは「消費税分を差し引いた請求書の発行」のような対応をしなければなりません。(会計年度の途中でこういう切替は、非常に面倒なことになります)
つまり、個人事業主(会計が1月~12月で確定申告する方)は、今年中に対応を決定しなければならない、というわけです。
法人の方(すでに課税業者の方)は、今年中にすべての取引先に対応の確認を
ご自分の会社が課税業者で適格請求書発行事業者番号を取得してあっても、取引相手に免税業者がいれば対応は非常に面倒なことになります。そういった面倒に対応するためにも、今年(2022年)中に、取引先全てに「課税業者・免税業者」の確認を行う必要があります。
そりゃあ大変!急がなきゃ!・・・と、ご理解いただけた事業主・関係者の皆様、「んで、まずは何をしたらいいの?」ということになるかと思います。次のページでは、具体的に(超具体的に)何をどうしたらよいのか?を解説いたします。
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