小規模事業者のためのインボイス制度解説

インボイス制度解説~制度の背景~

以下、このページで説明していることは、多分弊社サイト以外ではどこにもこんな説明をしていないと思います(調べたわけではないから確証はありませんが)。ただ、理解をしていただくためにはこういう事を知っておくことも必要だろうと思います。あくまで「インボイス制度の理解」のために弊社が独自にお伝えする説明とご了承の上でお読み下さい。

消費税の取りっぱぐれ問題

・・・こんな下世話な表現をするとマジで怒られるかもしれませんが・・・決して揶揄したり冷やかしでこの表現を使っているわけではありません。まずは、この問題の前に「消費税を納税(税務署の側から見ると徴税)する仕組みとルール」について理解しておきましょう。

預かり消費税を納付する仕組みとルール

1年間の売上が「1000万円(税別)」のお店があったとしましょう(税別1000万円なので、消費税も合わせると1100万円の収入があったことになります)。・・・話をスッキリさせるためにこのお店「岸本商店」としておきます(^^)。

【基本のルール】

岸本商店の収入のうちの100万円は、販売のときにお客様から預かった消費税なので、この100万円を決算(確定申告)後に税務署に納付します。

これが預かった消費税を納付する基本ルールです。けれども、実際には1100万円の収入で100万円を預かり消費税として納付する事業主というのはほとんどいません。それは、以下で説明する「仕入れ控除」という制度があるからです。

【仕入れ控除】

1000万円の売上を得るために、岸本商店では商品をある卸業者から600万円分仕入れていました・・・この場合600万円にも消費税がかかるので実際に「支払った」金額は660万円になります。
この、「売上を得るために仕入れなどの経費として支払った際に預けた消費税分は、売上の際に預かった消費税額から差し引くことが出来る」というルールになっています。

つまり、仕入れ控除という制度を当てはめると、岸本商店は「100万円(預かった消費税)ー60万円(業者に預けた消費税)」=40万円分を税務署へ納付すれば良いことになります。

この仕入れ控除、納付するお店の側からすると「100万円納めるべきところを40万円に減額できた」ということになりますが、逆の立場(税を徴収する側)の税務署からすると、実は「100万円徴税できる」事に変わりはありません。なぜなら、控除した60万円は、仕入れた先の卸業者から納付されるからです。

・・・と、ここまでは理解できたでしょうか?

  • 岸本商店は1000万円だから100万円の消費税を納付するのが基本
  • けれども仕入れなどの経費で60万円分消費税を支払っていたら、差額の40万円だけ納付すれば良い(残り60万円は支払った先の仕入れ業者から納付される)
  • どちらの場合でも税務署側からみたら「100万円消費税が納税される」ことに変わりはない

という仕組みさえ理解できればOKです。・・・ところが・・・です。現実にはこのルール通りに消費税の納税(税務署から見ると徴税)をすると、とんでもない「消費税の取りっぱぐれ」が起きてしまうのです。

消費税の取りっぱぐれとは?

上記の岸本商店が、同じように卸業者に600万円(税込み660万円)を支払っていたとしましょう。

ところが、この仕入れ業者(卸売業者)が、場合によっては「預かった消費税を納付しなくて良い場合がある」というルールが存在するのです。それは「1年間の売上が1000万円未満の場合には、免税業者となり預かった消費税を納付する義務はない」というものです。

もし、卸業者が年間1000万円未満の免税業者だった場合、ルール通りにやると以下のようなことになってしまいます。

  • 岸本商店は仕入れ控除制度のルールにのっとって、ルール通り40万円を納付する
  • 卸売業者は免税業者なのでルールにのっとって、預かった消費税60万円を納付しないですむ
  • すると、税務署側からみると、「岸本商店には1000万円の消費(売上)があったのにも関わらず、結果的に徴税出来たのは40万円」ということになってしまう

つまり、現状の法律・ルールでは、ルール通り税金の計算・納付をしても、「本来見込めるはずだった消費税の税収が、そのとおり入ってこなくて、一部免税分として納付されないままになってしまう」という事になってしまうのです。

税務署や国税庁など、公の立場の方はこのことを「取りっぱぐれた」などと表現することは決してありませんが、筆者のように民間で商売をしていて損得を金額で表現するような立場の者にとってはこれはどう見ても「消費税の取りっぱぐれ」です。

消費税の取りっぱぐれを解消するためにルール変更・・・それがインボイス制度

ここまでお読みいただいた方には、そろそろ何となく想像が付き始めた方もいらっしゃるかも知れませんが・・・そうなんです。コレって、制度としておかしいですよね?

  • 「代金として支払ってもらった」わけじゃなく「納税するために預かった消費税」を預かりっぱなしで納付しなくて良いルールがあって
  • しかもそのルールが原因で本来税収として見込めるはずの消費税収が減ってしまう

なんて・・・それなら、「免税業者という制度をなくせば良いじゃないか」ということになりそうですが(税の専門家ではない筆者も、素人的発想でそう思ったりもしたのですが)、よく考えたら「どんな収入の場合でも預かり消費税を計算してちゃんと納税しなさい」となると、消費税の納税額を確認する税務署や国税庁の方たちの作業はとんでもなく膨大で煩雑なものになりそうです(実際、そういう煩雑な作業が原因でかえって非効率になったりするのを避けるために免税業者という制度があるようですので、ね)。

そこで、それなら「消費税を預かる・納付する際のルールを変えよう」ということで出てきた制度が「インボイス制度」というわけです(・・・と、理解していただくと納得しやすいと思います)。