~現場主義の経営とデジタルの正しい付き合い方~
近年、実に色々な場面で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を耳にするようになりました。「DXに乗り遅れると会社が生き残れない」「補助金を活用して一刻も早くDXを進めるべきだ」といった風潮に影響され、焦りを感じている事業者様・経営者様も多いのではないでしょうか?
けれども、弊社岸本ビジネスサポートでは、敢えてこう問いかけたいと思います。
小規模事業者は、本当に必死になってDXを目指すべきなのでしょうか?
以下、この記事では、この問い掛けについて、最新のAI技術などについての客観的なデータ分析と、当社の現場での支援経験を踏まえ、小規模事業経営者様および小規模事業者を支援する仕事に就かれている皆さまに向けて、「小規模事業者にとっての本当に意味のあるデジタル化」の答えを紐解いていこうと思います。

1.「DXの4段階」から見る小規模事業者の現在地
デジタルトランスフォーメーション(DX)は、経済産業省などで以下のように定義されています。
- 第1段階 アナログ:紙や口頭、対面を中心とした業務(手書き伝票、電話受注など)
- 第2段階 デジタイゼーション:アナログな作業を部分的にデジタルに置き換える(Excelでの管理、メール対応など)
- 第3段階 デジタライゼーション:デジタル技術を使って業務プロセス全体を改善する(クラウド会計や予約システムの導入など)
- 第4段階 DX(デジタルトランスフォーメーション):デジタルを前提としてビジネスモデルや経営のあり方そのものを変革する
統計によると、従業員20人以下の小規模事業者のうち、7割以上が「1.アナログ」あるいは「2.デジタイゼーション」の段階にとどまっています。
DXの本来の定義(段階4)を目指すとなれば、単にツールを導入する費用だけでなく、従業員の教育、社内ルールの抜本的な見直し、さらには企業文化の変革まで、莫大なコストと労力が必要になります。事業主様(社長、オーナー)自身が営業から経理、現場作業までを兼任していることが多い小規模事業者にとって、いきなりこの段階4の「DX」を目標に据えることは、非現実的と言わざるを得ません。
2.エッセンシャルワークの現実:現場の作業はデジタル化出来ない
小規模事業者の多くは、建設、介護、飲食、運送、農業、理美容、飲食、生活関連サービスなど、人が体を動かし、技術や手間を提供することで対価を得る「エッセンシャルワーク」中心の業種です。
ここには、極めて重要な真実があります。それは「現場の本質的な作業はデジタルでは置き換えられない」ということです。
小規模事業者の皆さまのご商売・事業では、
- お客様へ提供する料理をロボットが作る、なんてことは考えられない(大手の飲食チェーンではあり得るかもしれませんが)
- 手作りの木工工作や、家を作る作業を全部ロボットがやるなんてことも考えられません。
- ましてや、人の体や髪の毛を洗う・整えるというような「人対人」の作業をロボットやAIに任せるなんてとても出来ません。
- 百万歩譲って遠い将来それらの大半がデジタル(ロボットやAI)が代わりにヤルように鳴ったとしても、真心を込めてお客様をもてなす、思いやるという部分はかならず人がすることです。
こうした手作業、人による作業の価値は、バックオフィスの業務をどれだけ最新のITツールで効率化しても、直接的にスピードアップするわけではありません。そのため「ITツールを入れたところで、現場は何も変わらないんじゃないか?」と事業主の皆さまが感じるのは、ある意味で非常に正しい感覚なのだと私は思います。
小規模事業者・・・小さな会社・小さなお店・・・の最大の武器は、デジタルでは代替不可能な「手触り感」や「人間味」であり、そこにこそお客様はお金を払っています。無理にビジネスモデルをデジタル中心に変革しようとすれば、自社の強みである「情緒的な価値」や「人的な信頼関係」を損なう恐れすらあります。つまり
全ての小規模事業者が、必ずしも段階4のDXを目指す必要はない
というのが私ども岸本ビジネスサポート株式会社の1つの結論です。
3.「現場に付随するアナログ作業」こそが真のターゲット
では、小規模事業者にデジタル化は一切不要なのでしょうか?私ども岸本ビジネスサポートは、決してそうではないと考えています。むしろ、
「小規模事業者ほど、効くところだけをデジタル化する価値が高い」
と考えています。
現場の作業そのものはデジタル化出来なくても、「現場に付随するアナログ作業の負担」は経営者や従業員の皆さまから想像以上に時間と精神的エネルギーを奪っています。例えば
- 勤務シフト調整や勤怠管理の手作業
- 現場からの報告書や連絡の手書き記入と、事務所でのパソコンへの転記作業
- 担当者の「頭の中」にしかない属人的な顧客情報の管理
- 見積から受注、請求書発行までの転記作業とそれに伴うミスの修正
これらは本来「価値を生む本業」ではないにもかかわらず、日々の業務の大半を締めてしまっています。小規模事業者が目指すべきデジタル化とは、壮大なビジネスモデルの変革(DX)ではなく、
デジタルを使って、やりたくない非生産的な仕事を減らし、やりたい本業(現場)に集中できる環境を作ること
これに付きます。
4.小規模事業者が優先して取り組むべき「4つの身の丈デジタル化」
では、具体的に何から始めれば良いのでしょうか?・・・高機能で高額なシステムは不要です。スマートフォン1台で完結するような手軽なツールを用いて、以下の優先順位で「身の丈にあった実務のデジタル化」を進めることをオススメします。
(1)経営数字を掴むこと
売上、粗利、原価、資金繰り等の数字が見えない状態では、正しい経営判断は出来ません。日々の取引をクラウド会計ソフトなどで管理し、利益が残る適切な価格設定が出来る状態を作ることが最優先です。
(2)繰り返し発生する事務を整えること
見積、請求、入金確認といった定型業務をデジタルでつなぎ、二度手間や漏れを防ぎます。これにより、事務負担を減らして「現場に費やす時間を取り戻す」事ができます。
(3)属人化(特定の人の頭の中だけの状態)を減らすこと
紙の台帳や口頭伝達を極力減らし、情報をデジタルで共有することで、「社長や特定のベテランスタッフしか分からない」という状態を解消します。これは将来、家族や従業員に事業を引き継ぐ際にも非常に役立ちます。
(4)顧客との接点を強くすること
大企業のような高度なデータ分析は必要ありません。顧客情報を整理し、LINEなどの(お客様も利用されることの多い)SNSなどで地域のお客様と直接繋がり、再来店や再受注を促す仕組みを作るだけで、売上は大きく安定します。
5.デジタルの真の目的は「アナログの価値」を際立たせること
デジタル化を進めれば進めるほど、皮肉なことに
「最後に残るアナログな部分(人間味や職人技)」の価値がより一層際立つ
というようになります。「どこをデジタル化するか」以上に
どこを絶対にデジタル化せず、人の手で行うか(守るか)
を決めることが、実は小規模事業者・・・小さなお店や小さな会社・・・にとっては、圧倒的なブランド差別化・勝ち残りにつながるのです。
デジタル技術は主役ではまったくありません。現場で汗を流す事業主様、スタッフの皆さまの技術や判断を影で支える「影武者」として機能させるのが正解だと弊社は強くそう思っています。
6.支援機関の皆さまへお願い
最後に、小規模事業者を日々サポートされている支援機関の皆さまへお伝えしたいことがあります。
「DX化を強要(促す)支援」ではなく「経営課題を翻訳する支援」をお願いしますm(_ _)m
補助金があるからと言って、過大なシステム導入を勧めるのは禁物です。流行り言葉としての「DXをやりましょう」というアプローチは、事業者にはむしろ「難しそう」「お金がかかりそう」「やりたくない」という心理的ハードルを与えてしまうだけです。
そうではなく、経営者さまの「面倒くさい」「時間がない」という本音を汲み取り、次のように経営課題と直結した言葉に翻訳して伝えてみてください。
- 紙の台帳、探したり整理する時間が勿体ないので、スマホやPCで見られるようにしませんか?
- 見積から請求を作る時に転記ミスして請求金額が変わってしまうのは勿体ないしマズいですよね。連動させて転記ミスしないようにしませんか?
- 値上げをいつ行えばよいか、タイミングを見極めるためにも、常に原価や利益率をぱっと出せる仕組みを作りませんか?
全員に同じDXのゴール(段階4)を示すのではなく、事業者ごとの「適正水準」を見極め、時には「その作業なら、手書きのままの方が速いですね」と言える勇気を持つこと、そしてツールを導入させた後も、それが現場のストレスなく定着するまで伴奏し続けること、それこそが本当に「価値のある支援の姿」だと私たちは強く確信しています。
終わりに
「DXしなければ生き残れない」という世間の空気に対して、必要以上に萎縮することはありません。あなたのお店の、あなたの会社の価値は、デジタルツールの中にあるのではなく、皆さまご自身の「技術」「信頼」「人間関係」の中にあります。
私たち岸本ビジネスサポートは、「ITは単なる手段」であると考えています。経営者の皆さまの身近なパートナーとして、お声に耳を傾けながら、日々の業務のムリ・ムダを減らし、本当に必要な「身の丈にあったITの活かし方」を一緒に考えていきます。
DXという言葉に振り回されるのは今日で終わりにしましょう。「自社の経営を少しでも楽にし、少しでも強くするために、今日からどこをどうデジタル化すれば一番効くのか?」・・・この問いに向き合うことこそが、皆さまの事業をより良い未来へナビゲートする第一歩となります。

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